You are here: TOPPAGE 歴史探訪案内 昔ばなし 第17回 おじいときつね きつね昔話の背景  

[第17回 解説-2]   
きつね昔話の背景

きつねのイメージ

 日本人の持つキツネが化けるというイメージは、中国の「狐(こ)」に由来し、狐は50年生きると女に変身でき、100年で美女や巫女、さらに千年で天狐(てんこ)となり9本の尾と金色の毛並みを持つとされていた。同時に動物を危険から救って恩返しをされたという話も数多くあり、キツネの場合は女房となって登場し、田植えをしたり子を育てたりする。多くの話でキツネが女に化けるとされるのは、キツネの子別れの習性からきたもので、種の保存のために行われる子別れの儀式から、たおやかな母と愛らしい幼子というイメージをつくりあげ、同時にその霊的・神秘的な姿と習性から、狐女房や信太妻などの説話伝承が伝えられていった。

信太妻 信太稲荷の縁起

信太の森の狐は、安倍保名(あべのやすな)に生命を助けられ、葛の葉という娘に化けて、保名の妻となる。二人の間には童子丸という男の子まで生まれたが、ある日、正体があらわれ、そのため、

恋しくば たづねきてみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉

という歌を残して去る。童子丸は成長し、後に立派な安倍晴明という陰陽師になった。 和泉国泉北郡信太村


この話に出てくる歌の「うらみ=裏見」とかけて、葛の葉が裏を向いているのは信太妻(キツネ)の恨みだと伝える地方もある。また、キツネはたいへん教養高い動物と考えられていて、タヌキは去るときに絵を残し、キツネは書を残すといわれていて、『鳥獣擬画』ではキツネが経を読む姿が描かれている。かいさくじいさんのお通夜に来たというキツネの行動は、この伝承から得た発想で語られた話かとも思われる。
 信太妻の物語は、中世の語りもの、説教節で語り継がれ、近世になって義太夫節や、歌舞伎にも脚色された。信太の森とは今の大阪府和泉市だが、この物語は、各地に少しづつ変えながら伝えられ、静岡県伊豆の韮山にも同様の物語りが伝承されている。

キツネ昔話のユーモア

かいさくじいさんのきつね話は、「化かされる」というユーモアがあり、やがてキツネに対して親しみを覚え、通夜にキツネがおかみさん姿で現れるという人情話でしめて、まことに日本人好みに構成されている。他のキツネ昔話には、ユーモアが前面に出された話が多く、キツネに化かされる人のことを馬鹿にしている男がまんまとキツネにだまされて、湯だと思って肥溜めに入っていたなどという伝承が各地にある。

金十郎という馬子が、客を運んで暗くなって帰る途中で、美しい女を乗せた。家に運んで行ってご馳走になり風呂に入る。急にさわがしくなって我に返ると、道ばたの溜め池に入っている。近くに稲荷の祠があり、ご馳走は馬の糞だった。 (静岡県横須賀町)

他にも、キツネの昔話には馬に関係するものが登場する。のぞいて見ろと言われて一生懸命のぞいていたら、馬の尻の穴だった(岩手県、長崎県、熊本県)、肥溜めに入っていた(静岡県、埼玉県)など、類似する伝承が全国にみられる。このようにキツネの昔話に馬糞、馬の尻などが登場するのは、十二支の午(ウマ)が盛んな火を象徴する干支で、火が狐と深い関係があるからだという。キツネの昔話は、稲荷信仰、干支、山の神など、さまざまな信仰や風俗がからみあい、情緒とユーモアを交えて構成され伝えられている。

 

参考文献 『ものと人間の文化史 狐』吉野裕子著 法政大学出版
 
『日本昔話通観 岐阜・静岡・愛知』 同朋舎
  『幻想動物辞典』草野巧著 新紀元社

 

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