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嫁っ田−農耕、信仰、伝説−

嫁田の伝説

 静岡県には、「嫁」を題材とした伝説が多くある。「嫁っ田」(嫁が田)、「嫁殺し田」などという伝説で、馬の目ばかりの田といわれて、苗を植えにゆくと、それが非常に広い田で、嫁一人では植えきれない。夕方になって西に入る日を招いて植え終わり、その罰で死んでしまうという話である。
 富士郡須津村(現富士市内)のお菊という嫁の一町六反の由来、駿東郡清水村(現清水町)の早乙女塚、庵原郡高部村(現清水市内)の嫁田、静岡市北安東の吉塚、そしてこの日坂の「嫁っ田」など、県内各地にある。
 なぜこのように若い嫁が田で死ななければならないのか。三河の花祭や、信州新野の雪祭、磐田郡水窪町西浦の田楽などで、孕み女のまねをした者が出てくるが、これは嫁の子どもを産むという生産力を、その年の豊作に結びつけたものであった。嫁田も、直接、その田で嫁が死んだということより、嫁の子産みによって、その田の生産を願うということが根底にあるのではないだろうか。

(*今回の「嫁っ田」も、疲れ切った嫁が二子石に腰をかけたまま死んでしまうとする言い伝えもある。)


農業の歴史と女性

 源平合戦の戦場となって荒廃した遠江の荘園は、鎌倉時代に復旧し、人々は農業に励むようになった。
 鎌倉時代以降、農機具が改良され、耕作に牛を使うようにもなったことから収穫量が増し、加えて領主権の没落などにより農民の地位が向上するなど、さまざまな時代を経て農村の郷村制が発達することになる。荘園領主が増収分に増徴したが、それでも余剰があり、農民の暮らしは豊かになっていたものと思われる。中世(1450年頃)には直播きが少なくなり、苗代栽培の普及によって女性が田植えの仕事をするようになった。
 そして近世、幕藩政治のもとで領主の根本的課題は、財政難をいかに克服するかということであった。農民から年貢と諸役を増徴するための厳しい土地と人の管理、新田開発の奨励が行なわれた。

 江戸時代、農家の女性は大切な働き手であった。一年を通じて女性の仕事は山ほどあった。秋の稲刈りの忙しい日々、冬の農閑期には薪とり、農具の手入れ、用水路整備のための出役、田起こし、春は苗代作り、種まきの準備、麻畑や綿作りの手入れなど、休む暇なく夫や家族とともに働いた。そのうえ五、六月の農繁期には、麦刈りや田植えの労働が待っていた。野良仕事が終わると、簡単な夕食をとり、夜なべ仕事が始まる。男は麦の荒つき、女はその仕上げをうつ。養蚕は女の仕事であり、時には徹夜の作業が続くこともあった。綿摘み、漬物や味噌作り、糸引き、機織り、針仕事など、枚挙にいとまがない。
 このように、嫁、妻、母そして労働者という四つの重荷を背負った農家の女性の厳しい日常生活が浮かんでくる。


女性の地位

 江戸時代、武家の相続権は男子に限定され、一夫多妻制が公然と認められており、七去という妻を離縁できる条件もあげられていたが、女性に対しては「一度嫁してはその家を出ざるを女の道とすること…」という社会であった。農民に対する慶安二年(1649)の「慶安御触書」に「みめかたちよき女房なりとも、夫のことをおろそかに存じ、大茶をのみ物まいり遊山ずきする女房を離別すべし」(第十四条)とあるように、農民の妻としてあるべき姿が求められている。
 この時代の、結婚した女性の地位をかいま見ることのできるものに「宗旨人別帳」がある。享保十年(1725)有玉龍秀院の「宗旨人別書き上帳」によると、壇那として高林弥左衛門四四歳と書かれ、その横には同人妻三十一歳とのみ書かれている。ところが夫婦の子どもは、さよ、きんと名前が明記されている。明治二年(1869)になると、宗旨人別帳には「妻 登美」のように、妻の名前が明記されて、ようやく妻(女性)の存在をとりもどすことができた。江戸後期になると、貨幣経済の発達にともない、女性の賃金収入も得られるようになることが、女性に地位や発言力をもたらすようになった。


農村の婚姻について

 一般に上層農民の結婚は見合いによるものがほとんどであった。また、見合いもしないで世話人を信用して結婚が決められるということもあった。そして嫁をもらうというよりも手間をもらうとか、家を維持していくための跡継ぎをつくるものだとか、あるいは自分の死に水をとってくれるものを確保するとかいうような意識が強かった。この「嫁っ田」のおみつに課せられた一丁田の田植えも、一般的ではなかった婚姻の形式をとった豊かな農家が、世間の体裁を整えるための話であったか、農家のいう「良い嫁」の定義や、神仏への帰依の話を伝えるものであったのかもしれない。


東街便覧図略 嫁田
東街便覧図略 嫁田(名古屋市博物館蔵)
※参項文献
●『浜松の女性史 はぎのはな』
●『ふるさと百話 第一巻』静岡新聞社
●『東海道 小夜の中山』(社)中部建設協会発行

 

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