You are here: TOPPAGE 歴史探訪案内 昔ばなし 第15回 鍵島の水  

昔ばなし

鍵島の水 榛原郡金谷町五和

 

 むかしむかしのこと。

金谷の宿から少しはなれた田舎の村に、弘法大師さまが旅の途中で立ち寄られました。
そのときの弘法さまは、長い旅に疲れ、衣も古びておりましたので、みすぼらしいお坊さまにしか見えません。そんな姿で、鍵島という村に来たとき、坂の多い村々を歩いて疲れた弘法さまは、一軒の民家の入り口に立ち、
「もうし、喉がかわいております。水を一杯いただきたいが…」
と、家の者に声をかけました。あいにくその家にいたのは横着者の次郎で、いつもゴロゴロと寝てばかり。声が聞こえても、
「なんだよぉ、めんどくせぇな。ウチは貧乏だから水もねえよ!」 とウソを言い、顔も向けずに追い払ってしまいました。
しかたがないので弘法さまは、何も言わずに立ち去りました。
しばらく歩いて別の民家をたずねて、同じように声をかけました。
その家の者彦三は、くたびれた弘法さまの姿を見ると 「あれ、お坊さまでねえか。うちにはさしあげるものがねえけど、お水ならどうぞ、 ここのかめからいくらでも飲んでくだせえ。」
と、水屋にある大きなかめを案内し、ていねいにひしゃくを差し出しました。

それから何日かすると、鍵島の村人たちが川のことで騒ぎだしました。
「下の方じゃあ、たくさん水があるのに、なんでこっちじゃあこんなに涸れちまうんだ。」
上流の鍵島の村では、せき止めるものもないのに川の流れが細くなり、その下流ではどこからともなく水がわき、満々と水をたたえているのです。
村人たちは、この不思議な水の流れのことを村の長老にたずねたところ、
「弘法さまの法の力で変えられたのだ。きっとこの前あらわれたお坊さまが、弘法さまだったのだ。」
とおしえられました。
「そういえば…」 お坊さまを追い返したことを思い出した次郎は、みんなにそのことを話しました。
「申しわけねえことをしただ…。」 次郎は自分のしたことを悔やみました。
これを聞いて村のみんなは合点し、どこへ向かわれたとも知れない弘法さまに手を合わせました。

参考文献 『遠江古蹟図絵』解説 神谷昌志(一部創作)

 

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