You are here: TOPPAGE 歴史探訪案内 昔ばなし 第19回 福天天狗さま  

昔ばなし

福天天狗さま  小笠郡菊川町西方

掛川宿から一里ほど先、菊川の里の西よりに龍雲寺というお寺があります。
今からちょうど400年ほど前のこと。 龍雲寺の和尚さんの弟子に、龍仙という小僧さんがおりました。ある日、和尚さんがいつものとおり部屋で書き物をしていると、兄弟子が血相を変えて
「和尚さま!たいへんです!龍仙が気がふれてしまいました!」
と飛び込んできました。
「何を言っておる…」 和尚さんは、小僧さんたちが集まっている本堂の広間にゆっくりと歩いていきました。 龍仙の姿を見た和尚さんはびっくり。龍仙は、ふだんの優しい顔とは似ても似つかない狂気走った目で、寺の板縁を踏みならしながら、狐付きにあったように妙なことを口走っているのです。それでも気を取り直して、龍仙の言っていることをよく聞いてみると、

「我は福天という天狗なり。神代のころより天狗の首領なり。寺の向かいの山に住んで8万96年になる。この龍仙に取り付いて我が存念を語らんがためなり!」

「どうも龍仙には偉い天狗さまが取り付いているらしいの」と和尚さんはいい、熱心に語る福天という天狗のことばに耳を傾けました。
「諸国高山を遊歴し、秋葉山にしばらく留まり、三尺坊とも心易い仲である。今またこの山に帰らんと思う。この山上に宮を建立し、福天大権現と崇めなば、この村に災いが起こるであろう。」
福天天狗はたいへんなことを言いはじめました。

和尚さんは一大事と思い、福天天狗に聞いてみました。 「もしかしたら狐か狸かもしれない。あなたが天狗さまだという証拠はあるのですか?」 龍仙に取り付いた福天天狗は、
「証拠はある。我が往古に住んだ8万96年前、大きな鈴をひとつ山の頂上に埋めておいた。山のてっぺんを掘ってみるがよい。五尺下からその鈴が出てくるはずだ。」

和尚さんは、さっそく人夫に山の頂上を掘らせました。すると蹴鞠(けまり)ほどの金の鈴が出てきました。和尚さまの疑いは晴れましたが、
「どうやら、ほんとうに天狗らしいな。しかし、わしは未だかつて天狗の姿を拝んだことがない。まことの天狗ならば、その姿をわしに見せよ。」
と申しました。 天狗は今度は忍明という小僧に乗り移り、
「我のまことの姿を見れば、たちまち悶絶するであろう。それほどに疑いあれば、今夜燈の影に写して見せてやろう。」
やがて夜になり、小僧さんたちは神妙な面もちで本堂の広間の障子に灯の蝋燭を立てました。すると、目には小僧の姿である忍明の影が、鼻の高さは三尺あまり、絵に描いたような天狗の姿となって障子に写りました。
「これは天狗さまにまちがいない」 和尚さまは天狗のことばどおり、秋南山の頂上に福天天狗の宮をつくって供養しました。村の人々も「福天さま」と呼んで大切に奉ったそうです。

参考文献 『遠江古蹟図絵全』解説神谷昌志(有)明文出版社

秋葉信仰と龍雲寺

 

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